巡りあるき

うたひながら夜道を帰るからつぽのひだりの胸に風がはいつた

そこにあるもの―   両神山へ

そこで満ちている そこで待っている そこで待ちつづけている そこにあるもの― あるとき 溢れ こぼれ落ちる 揺れやまず 揺れやまず 揺れやまず 揺れやまず 倒木の小枝の無数の蜘蛛の巣の 無数の雫のつらなりの 待つてゐる 待ってゐる 待ってゐる ときおり か…

砂漠のロバ

砂漠の町でロバに出会った 私の目に急に涙があふれて 理由もわからないまま涙はあふれつづけた ロバは荷車をひいていた 荷台には主人が座り その後ろにはふくらんだ布袋が積まれていた 黄色い砂を舞いあがらせながら ロバは軽い足どりで 涼しい目をして 私の…

夕暮れ

秋明菊 夕暮れがおもむろに衣装を更える 老いたる樹々の梢の端が 夕暮れのため捧げ持つ衣装を。 眺めたまえ、すると君からいくつもの風光が分かれ拡がる。 一つの風光は空へ昇り、もう一つのは下へ落ちる。 どの眺めにも心の全部をゆだねずにいて、 あの無言…

『寂しさの歌』と『座布団』

劇作家の平田オリザ氏は、ポリタスというサイトの「三つの寂しさと向き合う」という一文の中で、金子光晴の「寂しさの歌」を取り上げながら、私たちが今、踏みとどまって受け入れなければならない“3つの寂しさ”について示唆されています。 金子光晴の「寂し…

あの場所

国道のむかう側に来た ここは稲の穂垂るる豊芦原のクニ トンネルは抜けたので とつくに雪国のはづだった あの赤い鳥居の三叉路がふり出し さうしてあのマンション あのマンションの窓のあかり あのあかりから遠ざかつてはいけないのだ マンションの方へ行く …