巡りあるき

うたひながら夜道を帰るからつぽのひだりの胸に風がはいつた

砂漠のロバ

砂漠の町でロバに出会った

私の目に急に涙があふれて

理由もわからないまま涙はあふれつづけた

 

ロバは荷車をひいていた

荷台には主人が座り

その後ろにはふくらんだ布袋が積まれていた

 

黄色い砂を舞いあがらせながら

ロバは軽い足どりで

涼しい目をして

私の前をすぎていった

その様子はむしろたのし気で

涙を誘う理由はなかったと思う

 

何故涙があふれたのか

ロバの涼しい目を思いながら

そのことを思いつづけている

 

砂漠の道は長くのびて

遠い地平の果ての

澄みきった空に つづいていた

                  ―高田敏子『砂漠のロバ』より―

 

 

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