2016-03-01 砂漠のロバ 詩 砂漠の町でロバに出会った 私の目に急に涙があふれて 理由もわからないまま涙はあふれつづけた ロバは荷車をひいていた 荷台には主人が座り その後ろにはふくらんだ布袋が積まれていた 黄色い砂を舞いあがらせながら ロバは軽い足どりで 涼しい目をして 私の前をすぎていった その様子はむしろたのし気で 涙を誘う理由はなかったと思う 何故涙があふれたのか ロバの涼しい目を思いながら そのことを思いつづけている 砂漠の道は長くのびて 遠い地平の果ての 澄みきった空に つづいていた ―高田敏子『砂漠のロバ』より―