2014-06-30 旅人かへらず 庭 旅人は待てよ このかすかな泉に 舌を濡らす前に 考えへよ人生の旅人 汝もまた岩間からしみ出た 水霊にすぎない この考へる水も永劫には流れない 永劫の或時にひからびる ああかけすが鳴いてやかましい 時々この水の中から 花をかざした幻影の人が出る 永遠の生命を求めるは夢 ・・・・・ 消え失せんと望むはうつつ さう言ふはこの幻影の河童 村や町へ水から出て遊びに来る 浮雲の影に水草ののびる頃 窓に うす明かりのつく 人の世の淋しき 自然の世の淋しき 睡眠の淋しき かたい庭 やぶがらし 西脇順三郎詩集「旅人かへらず」より