巡りあるき

うたひながら夜道を帰るからつぽのひだりの胸に風がはいつた

旅人かへらず

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  旅人は待てよ

  このかすかな泉に

  舌を濡らす前に

 

  考えへよ人生の旅人

  汝もまた岩間からしみ出た

  水霊にすぎない

 

  この考へる水も永劫には流れない

  永劫の或時にひからびる

  ああかけすが鳴いてやかましい

 

  時々この水の中から

  花をかざした幻影の人が出る

  永遠の生命を求めるは夢

 

  ・・・・・

 

  消え失せんと望むはうつつ 

  さう言ふはこの幻影の河童

  村や町へ水から出て遊びに来る

 

  浮雲の影に水草ののびる頃

  

  窓に

  うす明かりのつく

  人の世の淋しき

  

  自然の世の淋しき

  睡眠の淋しき

  

  かたい庭

  

  やぶがらし 

                   

                           西脇順三郎詩集「旅人かへらず」より