どうしてこんなことが起きたのか。この奇跡のはじまりが「猫」なのだ。
ゴーシュが死にもの狂いでセロを弾いているとき、「すうと扉を押してはいって来たのはいままで五六ぺん見たことのある大きな三毛猫でした。」
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「先生、こんやの演奏はどうかしてますね。」
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猫は知ってか知らずか、風のようにさっと来て、そして部屋のなかでは嵐のように荒れ狂い、そしてさっと去っていってしまった。かくて、ゴーシュは楽長のいじめから立ち直り、せいせいして心安らかに眠ることができたのである。
「猫だましい」河合隼雄より